現代日本における南アジア音楽の受容と変容

 世界がつながり、文化が交流する。

 これは、長い歴史を通して人類が古来より営んできたことです。

特に最後の大戦以後、世界はより広い範囲でスピードを持ってつながり、より深い交流が進みました。政治経済の分野でのグローバリゼーションが進んだことが著しいことは言うまでもありませんが、世界諸地域の文化も人やモノの交流を通じて、相互に影響を与え合っています。

 これらのことは、音楽の面では世界音楽やワールドミュージックと言われる潮流として立ち現れました。世界諸地域の音楽文化が、知識、音、音楽の担い手を通じて日本の音楽文化に対して影響を与えています。19世紀後期の明治期以来、日本が受け入れた西欧の音楽文化と、それ以前までに形成した日本の音楽文化の長い歴史の上に、世界諸地域の「民族音楽」が新たに受容され始めたのです。今日21世紀のこの時点までの学校教育で音楽を学んできた(いる)人々も、意図的か無意識的にかにかかわらず、インドネシアの音楽、インドの音楽、中南米の音楽、アフリカの音楽などの要素に多く触れています。メディアに登場する音楽や興味に沿って音楽演奏を楽しむ場面でも、それと気づかずにこれらの音楽要素に触れる機会が増えているのです。こうした状況の中で世界との交流の中で育んだ日本の音楽文化が、今また大きく変化を起こそうとしているようにも思われます。

 ここでは、特に早い時期から影響を与えていると思われる南アジアの音楽をとりあげ、その日本への影響についてまとめてみます。この地域の中でもインド音楽は、戦前から日本人が興味を持ち、1950年代より研究者がアカデミックな態度で接し、その後一般の音楽愛好家の中に大きな興味をもたらしたものです。1980年代よりは、現地に滞在してインド音楽を実際的に学ぶ人々も増え、現在では日本人によるインド音楽、パキスタン音楽、ネパール音楽などの演奏も多く行われるようになりました。

 もちろん、J-popに代表されるようなメディアや街中でで多く接することの多い音楽のみに耳を傾けていれば、南アジアの音楽などの影響があると気がつくこともないかもしれません。しかし、TVドラマの音楽、ドキュメンタリー番組で流れる音楽や効果音などにも、南アジア系の楽器や音楽の要素が使われていることがあるのです。南アジア音楽との交流の様子を観察することで、日本の音楽文化形成のあり方、受け入れた音楽の使い方などがわかり、日本の音楽の歴史を考える上でも興味深い事象が観察されるとも考えています。


 (本Webは、科研(21520161)の助成を受けたものである。)